【第2話】"絶対に需要ある"——また、確かめる前に作り始めた
マーケと社会心理学を、対話で学ぶ物語シリーズ「タクミとシュウ」第2話。前回 → 第1話
ep1で初めて、1人が最後まで読んでくれた。たった1人。でも俺は浮かれていた。「いける」。その夜には、もう次のAIツールのコードを書き始めていた。今度こそ、もっとすごいやつを——。
その画面に、また、打っていない文字が流れた。
> 手が早いな。で、それは誰のために作ってる?
シュウ:(どこかで淹れたコーヒー片手に)ほう。前回の話から3日で、もう次か。手だけは早い。
俺:聞いてくださいよ! 今度のはマジで需要あるんすよ。AIが議事録を自動でタスク化して——
シュウ:で、誰がそれを「欲しい」と言った?
俺:いや、絶対みんな欲しいでしょ。便利だもん。
シュウ:「絶対」。その根拠は。
俺:……俺が、欲しいから。
シュウ:(鼻で笑う)お前一人の"欲しい"で、また3ヶ月溶かすのか。前もそうだったろう。その前も。……一つ聞く。お前、今まで何個ツールを作って、何個畳んだ。
俺:……7個くらい、作って。畳んだのも、まあ、それくらい。
シュウ:その7個、作る前に、客に一度でも「金を払うか」を聞いたか。
俺:……いや。作ってから、出して、シーンとして、畳んで。
シュウ:毎回それだ。お前の病気は「売れないもの」を作ることじゃない。「売れるか分からないものを、確かめずに全部作っちまう」ことだ。
俺:でも、作らないと分からないでしょ。動くもの見せないと。
シュウ:誰がそう言った。……煙だけ先に立てて、人が寄ってくるか見る方法がある。中身を作る前にな。
俺:煙だけ……?
シュウ:コードを1行も書くな。今日やるのは、そのツールの"予告ページ"を1枚作ることだけだ。「こういうのが出ます。欲しい人はメールを置いて」。それだけ。
俺:は? 機能も無いのに? 詐欺じゃないすか。
シュウ:「近日公開」と正直に書け。それは詐欺じゃない。客に"先に聞く"だけだ。……お前が7回、一度もやらなかった、たった一つのことだ。
俺は渋々、半日で予告ページを作った。そして、自分のまわりの数人に声をかけて、見てもらった。
返ってきた反応は——3人。多くはない。でも、ゼロでもなかった。そしてそのうち1人が、こう書いていた。『これ、Slackと繋がりますか? 繋がるなら今すぐ欲しい』。
俺:……これ、作る前に、客が"欲しい形"を教えてくれてる。
シュウ:そうだ。お前が3ヶ月かけて作ってから知るはずだったことを、半日で知った。
俺:……でも、3人て。少なくないすか。
シュウ:少ない、と分かったことが収穫だ。3人なら、まだ全力で作る規模じゃない。お前は今日、"作らない"という一番難しい判断を、初めて手応えでやった。金をドブに捨てずに済んだ。礼は要らん。退屈しのぎになった。
俺:なんでそんなに、作る前に確かめろって言うんすか。
シュウ:(少し黙って)……俺は未来で、逆をやった。誰も欲しくないものを、"欲しい"と錯覚させて、売りまくった。それで罰された。……お前は、その鏡だ。本当に欲しがられるものを、確かめもせずに、自分で闇に捨ててる。……どっちも、罪だ。
俺:……。
シュウ:お前の一番の才能は「作れること」だ、タクミ。だが、それがお前の一番の罠でもある。作れるから、確かめずに作る。……次は、作る前に、聞け。
振り返ると、コーヒーのにおいだけが残っていた。
今日の1つ
作る前に、確かめる。コードを書く前に「予告」だけ出して、欲しい人がいるか(登録・反応)を見る。一人の"欲しい"で全部作らない。
※ この物語はフィクションです。理論(スモークテスト/需要検証)は一般に知られた考え方を題材にしています。記事が役に立ったら気軽にどうぞ。
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