【第4話】バグ記事がプチバズしたのに、フォロワーは1人も増えなかった
マーケと社会心理学を、対話で学ぶ物語シリーズ「タクミとシュウ」第4話。前回 → 第3話
ep3で、シュウは「"次も読みたい"と思わせる理由を作れるか」と言い残して消えた。やり方は、また聞けなかった。でも、俺は手応えだけは掴んでいた。バグ記事を1本置いたら、知らない奴が「助かりました」と言ってくれた。なら——もっといい記事を書けばいい。そうすれば今度こそ、フォローされるはずだ。
その週、俺は本気で1本書いた。Supabase の RLS*が service_role だと素通りして、クライアントから書き込めない罠。半日溶かした奴だ。再現コードも、踏んだ手順も、直し方も、全部詰めた。今までで一番、丁寧に書いた。
数日後。今度は、ちょっと跳ねた。Zennで「いいね」が18ついて、Xでも数人が「これ詰まってたやつだ」と引用してくれた。俺の記事としては、過去最高だった。
> ほう。今回は、誰かの机に届いたな。
シュウ:18か。お前にしては、上出来だ。
俺:でしょ。ちゃんと丁寧に書いたら、ちゃんと届いた。……で、見てくださいよ先生。フォロワー。
シュウ:……増えてないな。
俺:2人す。18いいねついて、2人。しかも1人はたぶん知り合い。意味分かんないっすよ。いい記事書けば、フォローされるんじゃないんすか。「この人いいな、追っとこ」ってなるでしょ普通。
シュウ:(カップを置く)ならんな。お前、最後に「いいな」と思った記事の、書いた奴の名前を言えるか。
俺:……え。
シュウ:先週、お前が「助かった」とブクマした記事だ。誰が書いた。
俺:……いや、覚えてないっす。問題が解決したら、それで——
シュウ:帰るな。お前もな。みんな、答えだけ持って帰る。記事に礼は言っても、書いた人間のことは、次の朝には忘れてる。お前が今やられてるのは、それだ。
俺:……うっ。
俺:でも、じゃあどうしろっていうんすか。俺はちゃんと役に立つもの書いたんすよ。それでダメなら、もっといいの書くしかないじゃないすか。次はもっとバズるやつを——
シュウ:そこだ。お前はまだ「一発の質」で殴ろうとしてる。違う。フォローってのは、記事への礼じゃない。"次も読みたい"の——予約だ。
俺:予約。
シュウ:人がフォローボタンを押すのは、たった今読んだ記事が良かったからじゃない。「こいつ、また役に立つもの出しそうだ」と思った時だけだ。一回の親切は"運がいい一発"かもしれん。だが二回、三回続けて同じ名前で役に立った時、初めて人は「次もある」と賭ける。フォローは、その賭けの予約だ。
俺:……いや待って。じゃあ一発じゃ無理ってことっすよね。それ、しんどすぎません? 俺、過去にも何回かちょっと跳ねたことあるんすよ。その時もフォロワー、ほぼ増えなかった。一発跳ねても消えてくだけ。だから「俺には向いてない」って、毎回そこで畳んできたんすけど。
シュウ:……今、自分で言ったな。お前は7回、種を蒔いた。だが一発の芽が出るたびに「これは違う」と引っこ抜いて、次の畑に移った。芽が出ないんじゃない。お前が、続きを見せる前に消えてるんだ。
俺:……。
シュウ:いいか。一回の跳ねは"点"だ。点は消える。だが同じ名前で点を3つ打て。読んだ奴の頭の中で、点が"線"になる。「あ、また Supabase で詰まったとこ書いてる人だ」——その瞬間、お前は"記事"から"人"になる。フォローは、人にしか押されん。
俺:……同じ名前で、点を3つ。
シュウ:ついでに言えば、お前の記事、誰が書いたか分かるようになってるか。プロフィール欄、空っぽだろう。何やってる誰かも書いてない。それじゃ点を3つ打っても、同じ人だと気づかれん。
俺:……あー。アイコンもデフォルトのままっす。
シュウ:それを直せ。たいそうな自己紹介はいらん。「個人開発でAIツール作ってる。詰まったとこ置いていく」——それだけでいい。点が"同じ人の線"だと分かる、目印を立てとけ。
渋々、俺はプロフィールを1行だけ書き換えた。それから、次の記事を出した。前にバズったRLSの話の、続き——ハマりやすい関連の罠を、もう1本。同じ語り口で、同じ「半日が浮けば」だけ添えて。
数日後。いいねは、前ほどは伸びなかった。9つ。でも、その中に——前のRLS記事に「助かりました」と書いてくれた、あのアイコンが、いた。今回も読みに来ていた。そして、フォロワーが、3人増えていた。
俺:……先生。フォロワー3人。微々たるもんすけど。でも、前のRLS記事の人、今回も来てたんすよ。同じ人が。
シュウ:(薄く笑う)それが、お前が初めて見た"線"だ。一回助けて忘れられる相手じゃなく、「次も読む」と決めた相手。……3人は、少ない。だが、お前が7回逃した"続き"を、今回初めて見せた証拠だ。
俺:……でも3人っすよ。これ、何の足しに——
シュウ:足しになるかどうかは、4人目を出せるかで決まる。"線"は、引き続けないと消える。お前が一番苦手なやつだ。
俺:……一番、苦手なやつ。
シュウ:(ヘッドセットに手をやる)俺も昔、人の心に"線"を引くのは得意だった。引きすぎてな。引いた線で、人を、こっちの都合のいい場所まで——
俺:……先生?
シュウは、それきり黙った。カップの底に残った冷めたコーヒーを、しばらく見ていた。俺がもう一度名前を呼んだ時には、椅子には誰もいなかった。
ーーーーーー(続く)ーーーーーー
今日の1つ
フォローは「いい記事」への礼ではなく、「この人の次も読みたい」の予約だ。一発の質では押されない。同じ名前・同じ語り口で2回、3回続けて役に立った時、読んだ人の頭で"点"が"線"になり、初めて「次もありそう」と賭けてくれる。だから、増えないのは失敗じゃなく、まだ"続き"を見せていないだけ。プロフィールに「何をしてる誰か」を1行立てて、同じ人だと分かる目印にし、続きを出す——一番苦手な「やめずに続ける」が、ここで効いてくる。
※ この物語はフィクションです。理論(一貫性/ザイオンス効果=接触の反復で好意が増す考え方)は一般に知られた考え方を題材にしています。補足
- RLS(Row Level Security):データベース(Supabase など)で「どの行を誰が読み書きしてよいか」を行単位で制御する仕組み。設定を誤ると、意図せず素通りしたり、逆に正しい権限でも弾かれたりする。
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